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2004年02月17日

ジャンクな世界

Thinking

僕は基本的に肉をあまり食べない人間なので、狂牛病騒動についてはどこか他人事のような感じがしている。牛丼もごくたまに食べるくらい。というわけで今回のことで一番最初に僕の頭にぼんやりと浮かんだのは、皆が話題にする吉野家とかではなく、寧ろ仙台名物「牛タン」はどうなるのか、みたいなことだった。

それは僕が「牛タン好き」だからというわけでは全くなくて、今回の騒動が起こる前、日本の国産和牛に狂牛病騒動が起きた時、仙台の牛タン業界の人たちが「仙台の牛タンは殆んどがアメリカ産牛なので安心です」みたいなPRを行っていたのを何かで聞いて、すごく変な気分になったのを思い出したからだ。

もちろん「仙台名物」というからには当然殆んどが「国産」、しかも「宮城県産」の牛だと素朴に信じていたせいもあるけど、そのPRする人たちがそのことを変だと思っていない、寧ろ安全性を売り込むチャンスとして、セールスポイントのように語る、その屈託のなさ、というか、臆面のなさに少しビックリしたのだ。

その土地ならではのもの、固有なもの、そう称されているものが実は、入れ替え可能なもの、ジャンクなものでしかなくて、しかも少し来歴を辿れば簡単にそのことが暴露されてしまうような浅薄さ、それが多分この国のあらゆるところを覆っているという、動かし難い現実と、そのことに何の屈託もない人たち。

ちなみに僕が今読んでいる大塚英志「サブカルチャー文学論」も基本は同じテーマを扱っている。この本は「文学のサブカルチャー化」という問題に取り組んだ批評家として、江藤淳を取り上げ、江藤淳の視線から「戦後」の文学を論じる、そういう本だ。彼によると、江藤淳は文学とサブカルを隔てる規準線を、

「仮構化していく世界のその歴史的必然性を知り一個の身体をもってそれに耐え、不可避の選択としてそこに「適応」するならそのことに批評的であれ」

というように引いた。ジャンク化し、入れ替え可能化し、(ブランドものに象徴されるように)記号的消費が当たり前のように行われる、そういう浅薄で嘘くさい現実を僕たちは生きている。僕たちはその現実を簡単に否定するべきでもないし、まあそもそも出来やしない。僕たちに出来るのはその現実に「適応」することだけだ。でもせめて、「文学を名乗るのであれば」その嘘くささに対して自覚的・批評的であって欲しい。江藤淳はそう考えていた、と大塚さんは共感をこめて語る(そして結局、その願い、努力にもかかわらず、文学のサブカル化をせき止めることは残念ながら出来なかったとも)。

「批評的」というのはまあ前回の日記の続きで言えば、「ネタ」と「ベタ」の間に立つということかな。「ベタ」に現実に埋没するのでもなく、「ネタ」として「ベタ」を否定するのでもなく、その間に立つ、多分そんな感じだろうと、僕は思う。

そしてその批評的態度は誰にでも、いついかなる時でも、というわけではなくて例えば「文学を名乗るのであれば」、求められるべきものだ。

僕は前回も書いたように、「屈託のなさ」=「ベタ」をそのものを否定しない。「屈託のなさ」がシステム維持に貢献している部分は大きいからだ(「屈託のなさ」こそが「仙台名物牛タン産業」を育て上げ、そしてそれによって供給側も観光客も「楽しくやれている」=システムが回っているのだ)。或いは「ベタ」がなければ、「ネタ」もないってことも言える。例えば、Aについて「ベタ」に信じる人が誰もいなくなって、みんなが「ネタ」として取る場合、それはAについては「ベタ」な受け止め方がされていることと端的に同じだ。あれは「ネタ」だ、とかばかり言っている人はそういうような事に無自覚だと思う。

でも一方で「牛タン」な人たちの屈託のなさに、少し嫌気がさしたのも、僕は正直に認める。あるいは、今まさにホットトピックである牛丼についてだって、狂牛病騒動が持ち上がる前に輸入され、在庫になっていた牛肉と、まがりなりにも検査体制が作られた現状でのアメリカ産の牛肉とで、どちらが安全か、と言えば圧倒的に後者の方であることは明らかなのに、何故かみんな前者を求めて駆けずり回っている、という意味で、まさに「冗談」みたいな話になっている。にもかかわらずなぜか誰も自分たちのやっていることに対して「屈託がない」。そういうのにもやっぱり、少し嫌気がさしてしまう。

だからまあ、そういう複雑な思いを吐き出して、少しでも楽になるために、僕は細々とこんなサイトをやっているわけだし、研究者は論文を書くわけだし、文学者は文学を書くんだろうなあ、っていう気がする。そういう意味で江藤の「文学は批評的であれ」というのは「だってそもそもそういう動機から文学って書かれるものじゃないのか、違うのかよ」っていう、そういう確認というか、問いかけなのかもしれない。

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