NHK教育テレビの特別番組に安倍晋三・中川昭一両議員が圧力をかけたのでは、と朝日新聞が報じた問題について、僕ははっきりとこの両議員の方に疑惑を持っている。
まず安倍晋三氏の発言の流れを時系列で追ってみよう。
まず1月12日の朝日新聞の記事。
「偏った報道と知り、NHKから話を聞いた。中立的な立場で報道されねばならず、反対側の意見も紹介しなければならないし、時間的配分も中立性が必要だと言った。国会議員として言うべき意見を言った。政治的圧力をかけたこととは違う」次に同日ご自身のHP上での最初の声明。
この模擬裁判は、傍聴希望者は「法廷の趣旨に賛同する」という誓約書に署名しなければならないなど主催者側の意図通りの報道をしようとしているとの心ある関係者からの情報が寄せられたため、事実関係を聴いた。その結果、裁判官役と検事役はいても弁護士証人はいないなど、明確に偏った内容であることが分かり私は、NHKがとりわけ求められている公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した。彼の言い分と朝日の記事での発言内容とが同じだ、ということが分かる。次に同日夕方上の声明のすぐ後、同HP上での誤報部分の指摘。
1)朝日新聞の報道では「安倍晋三自民党幹事長代理が…NHK幹部を呼んで…」となっているが、先方から進んで説明に来られたのであって、当方がNHK側を呼びつけた事実は全くない。(1)呼びつけてはいない(2)批判派のインタビューをせよ、とは求めていない、という2点が朝日の誤報部分だと言う主張だ。(1)はともかく(2)は奇妙だ。朝日の記事では「批判派の意見も紹介しなければならない」となっていて「インタビューをせよ」ではない。しかもインタビューがいつ撮られたものであるかはここでは関係がない。インタビューしたけどオンエアしなかった、ということはままあるからだ。それを前提に「(ちゃんと時間をとって)紹介しなければならない(オンエアしなければならない)」といった注文こそが番組内容に対する干渉なのではないか、と朝日の記事では批判されているわけで、従って(2)の釈明は非常に曖昧である。「紹介せよなどと言っていない」というようになぜもっとクリアに反論しなかったのだろうか。2)先方が説明に来たのは、番組放送の前日である1月29日のことであるが、朝日新聞の報道で指摘されている「民衆法廷に批判的立場の専門家のインタビュー」はそれよりも前に完了していたものであり、当方がこうしたインタビューをするようNHK側に求めた事実は全くない。
そして最後に14日夜、同HP上での声明。
報道で問題となっているNHKとの面会は、NHK側の「NHK予算の説明に伺いたい」との要望に応じたもので、こちらからNHKを呼んだ事実は全くない。「自主的に説明がなされた」?最初の声明では「(偏った内容だと)情報が寄せられたため、事実関係を聴いた」と「能動的」表現になっている。ここからは「NHK側から話を切り出された」というニュアンスは汲み取り難いのだけれど。「偏った内容だ、と指摘した事実もない」?本当だろうか。最初の声明ではあれだけ番組内容そのものが批判の対象だったのに?なのに「個別の番組内容はともかくNHKたるもの公正な報道を心がけるべきだ」なんていう無内容な一般論を垂れただけ?明らかにフォーカスをずらしてると思うんだけど。また、この面会では、NHK側から予算の説明後、自主的に番組内容に対する説明がなされたものであって、こちらから「偏った内容だ」などと指摘した事実も全くなく、ましてや番組内容を変更するように申し入れたり、注文をつけたりしたという事実もない。そしてこの番組に関してNHKと話したのは、この時ただ一回だけである。
この流れから僕なりの推測。どうも彼は「番組内容が酷い(と自分が思った)なら国会議員として注文をつけて良い」と最初は考えていたし、記事が出た直後も何が問題か分かっていなかったんじゃないだろうか?で、徐々に問題の輪郭がわかってくるにつれ、「番組内容に踏み込むことすらまずい」ことが分かって自分の見解を少しづつ修正したのではないか。
次に中川昭一氏の発言。
まず朝日の記事。
「疑似裁判をやるのは勝手だが、それを公共放送がやるのは放送法上公正ではなく、当然のことを言った」と説明。「やめてしまえ」という言葉も「NHK側があれこれ直すと説明し、それでもやるというから『だめだ』と言った。まあそういう(放送中止の)意味だ」
次に13日パリでの会見。
「NHKが予算に関して説明に来たのは(01年)2月2日で、放送日よりも後だ。当方から放送内容の変更や放送中止は一切言っていない」あまりにも分かり易過ぎる前言撤回だ。極めつけは14日プラハでの会見。
「4年前のことを聞かれ、記憶があいまいなまま答えた」彼は朝日の取材に対してはっきりと答え(内部告発したNHKの長井暁氏と同じ見解を述べ)、その後前言を「記憶違い」ということで翻している。問題は朝日の彼に関する記事は誤報ではない、ということだ。つまり、あの記事にあるあまりにも分かりやすい「干渉・圧力」を、朝日の取材を受けた段階では彼も安倍氏と同様「問題だ」とも思っていなかったことになる(自覚があれば、取材時に「4年も前のことなので記憶が曖昧」とか逃げておけば良かったのだ)。
要するに二人とも最初は全くの無警戒であり、そもそも何が問題なのか分かっていなかったのではないか、というのが僕の考えだ。もしそうなら、両名とも近代国家におけるジャーナリズムのあり方について著しく見識がない、或いは少なくともその近代国家のトップを狙う政治家としての資質に欠けると言わざるをえない。
(追記1)
スワンさんからの情報で、朝日新聞が当Entryでやったような検証記事を書いたとのこと。でも、これだとなんか僕の方が二番煎じみたいだな。
「NHK番組改変問題、本社の取材・報道の詳細」
「安倍晋三氏の主な発言」
「中川昭一氏との一問一答」
(追記2)
『「説明尽くされてない」 朝日記事に安倍氏が反論』
「論点のすり替え」ねえ。僕が思うに、安倍さん、あなたは「番組内容が偏っているかは別次元」とした朝日の見解に「同意するべきだ」と思いますよ。個別の番組内容に踏み込むことがまずいと思ったからこそ、当初の見解を修正してまで「番組内容の変更を求めたことも注文をつけたこともない」と主張したのではないのですか?この期に及んで随分支離滅裂な反論をなさるのですね。いや、思わぬ事態に混乱して冷静さを失っている、といったところなのでしょう。お察しします。が、「人間窮地に陥った時こそ器量が試される」という箴言が正しいとすると、あなたの器量は思ったより小さいということになりますね。
(追記3)
ジャーナリスト魚住昭氏による朝日新聞記者の取材テープから起こされたという一問一答をメモ。
(関連Entry)
「NHKは死んだ」
「NHKは死に続けている」


Comment (2)
12日の安倍氏の談話との不整合についての説明責任は安倍氏にありますね。その後、NHK上層部と口裏をあわせたという可能性も否定できず、NHKの声明も信用できません。
他方、朝日サイドは、どうやら例の「信頼すべき上司」に取材した形跡がみられますね。http://www.asahi.com/national/update/0118/004.html
となると、たとえその幹部が事実誤認に基づいて取材に応じたとしても、朝日には真実と確信するにたる相当の理由があったということになるでしょうか。
いずれにしても、どこをどうみたら朝日の陰謀(工作)説が入り込む余地があるのか私には理解不能ですが、そのような方向で問題を矮小化しようとしている傾向には疑問を感じています。
Commented by: swan_slab | 2005年01月18日 05:18
日時: 2005年01月18日 05:18
コメントどうもありがとうございます。安倍さんが「捏造だ・陰謀だ」と明後日の方向で反論するので、朝日としても引くに引けないのかもしれませんね。僕たちとしては「ガチンコ」大歓迎ですが。
ところでリンク先から「安倍晋三氏の主な発言」というのも読みましたが、あれが事実なら、朝日新聞は「安倍氏が呼んだか否か」以外は特に捏造(かどうかは分かりませんが)などしてないことになりますよね。「前言撤回した方が説明責任を負う」、スワンさんの仰る通りだと僕も思います。
Commented by: deadletter | 2005年01月19日 05:19
日時: 2005年01月19日 05:19