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2006年03月14日

「梯子」は何処へ消えた?

Thinking

前回山形さんの発言を「かっこいい」と評したことについての補足とswanさんへのリプライを兼ねて

僕はコメント欄で以前こんなふうに書いたことがあります

スターリンの社会主義、天皇・ヒトラーのファシズム、金正日の独裁体制、などいずれにおいても、それが維持されるために、その下にいる人々が体制の正当性(or正統性)を本気で信じている、ということは必要ない。人々が各々「任意の他者が体制の正当性を信じているはずだ」と「想定」しさえすれば事足りる。

しかもこの「任意の他者が存在することの想定」は「反例的具体的他者」の存在によっては論駁されない(たまたま隣人が天皇制打倒論者であったとしても、「任意の他者は天皇制を支持している」という「想定」は必ずしも崩れない)。従って誰も「正しい」と信じていなくてもイデオロギーは支持されうる(支持されているかのように見える)と。

確かにそういう事態は論理的にはありえます。ただ問題があります。「任意の他者の想定」がどのように成立するのか、ということです。「(自分は信じていないが)みんな信じてしまっているであろう」という感覚が成立するにはやはりそのイデオロギーは何らかの「確からしさ」、「もっともらしさ」に基づくところから出発しなければならないのではないか(突発的に出現するということはありうるのかどうか)。

貨幣なんかもまさにこの「任意の他者の想定」があることによって機能しているわけですけど、これだっていきなり出現するわけではないでしょう。登られた梯子は外されているのでしょうが、梯子が無ければ登れなかったはずでしょう、みたいな。

僕は制度についてみんながその制度をマジで受け止めていなくても維持されうる、ということを認めます。というか「原理的には」誰もいなくても維持されうるとすら思っています。言動が一致していることが制度の存続条件だ、などとは全く思っていません。その意味では確かに山形さんの議論はナイーブな部分がある。

個人の信念のレベルでは人はリベラルである必要はないが、公共空間を生きる個人というレベルにおいてその信念を括弧に入れられさえすれば良い、というか寧ろそういう分裂症的能力こそがリベラルな社会で必要とされる、という点も同意出来るし、その意味では「好ましい食い違い」と言えるかも知れないとさえ思います。つまり自分の信念がどうであれポリティカルにコレクトな選択作法が制度において肝要なのだと。

だけれどもそもそもその「コレクトネス」は一体何処からやってくるのか、という疑問は残ってしまうわけです。「それ」が「コレクトネス」として選択対象に「なる」までに、何か「梯子」のようなものは必要ないのだろうか、ということです。もちろん「原理的」には必要ないわけですし、突如として出現することはありえますが、「現実的」にはどうだろうと。その意味で山形さんの

その議論を納得させようとしている当人が「オレの貢献なんて小さいから行動しない」と明言するのであれば、その人は納得させるべき数千万人の最初の一人である自分すら説得するのに失敗しているのです。
という煽りは「効く」し説得力をにわかに帯びるように思うわけです。

とは言え、「梯子」があったはずだ、結果として「コレクトネス」が存在するということは原因としての何かが存在したはずだ、というのも倒錯したドグマである可能性があります。現に存在しているのは事実としてのコレクトネスや制度であって、そこになにか遡及的に原因を想定せざるを得ないというのは、因果的説明モデルを絶対視しているだけに過ぎないのかもしれない。

まとめると、(1)制度を支える「梯子」はさし当たって、それがコレクトネスとしてコンセンサスを得るまでのレベルにあるとすれば必要ない。(2)けれどもコレクトネスとして認知されるまでにはやはり「原初の一撃」、「梯子」は必要ではないのか。(3)とは言えその「原初の一撃」を想定してしまう、というのも単なるドグマに過ぎないかもしれない。ちなみに僕は素朴に(2)に思考が引き摺られている状態です。要するに山形さんの議論はあまい部分もあるのだけど、素朴であるが故に説得的な要素を含んでいると。僕の今言えることはこんな感じでしょうか。

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