でも、イモも大事だよ。イモこそが、ここで擁護される権利そのもの
日本国憲法が体現するリベラルデモクラシーとはまず第一に「個人が尊重される」ことを基底とする。ところで尊重されるべき個人とはなんだろうか?言い換えれば「どういう個人」を尊重すべきなのだろうか?ざっくりと答えを言ってしまえば「そのような内実規定はない」ということになるだろう。
僕もあなたもそれぞれお互いに容易には理解されない嗜好・価値観を持ちそれに耽溺している。そしてそれは基本的にはどこまでも肯定されるべきだ。「親から受継いだ農地を守りたいという気持ち」、「みんなで楽しく芋掘りをしたい気持ち」全て、まず第一に考慮されなければならない大切な権利である。それを「取るに足らない」と切り捨てる社会は、結局「僕もあなたも取るに足らない」とすることに躊躇いを持たないだろう。
mojimojiさんが紹介されている「いしけりあそび」の2つのEntry
○○○!知恵袋 橋下知事は鬼畜ですか?
大阪芋畑闘争 疑問におこたえします
に法的な論点はとても明晰にまとまっている。当初の「保育園批判派」の中でも納得した人たちも多いように思う(「マスコミはこういうように最初から書いてくれれば誤解はしなかったのに!」)。しかしながら、と僕は思う。彼らは一体何について誤解をしていたのだろうか?そして一体何を納得したのだろうか?「保育園側に酌むべき事情があった」ことを納得した?
けれども「酌むべき事情があった」ことなど「最初から記事に書いてあった」のだ。「そこで芋掘りをしたかった」「そこで野菜を育てたかった」…当事者が行政と争うのにそれ以外に理由が要るのだろうか?上記のEntryを書かれた「いしけりあそび」氏は法的な論点を語りつくした後にこうまとめられている。
行政訴訟って、提起するだけでもしんどくて、めったに勝てなくて、たいていは膨大な努力は徒労に終わって、でも、そんな手段しかないから、自分のイモ畑を守るために、それでがんばっているのに、絶大な権力を持つ相手から、裁判の途中でそれを踏みにじるようなことされて、誠実に交渉しただの、園児の涙を利用しただの、イモを早くホレだのマスコミで流されて...細かな法解釈を一般の人がカン違いするのはしかたないと思うんですけど、なんでそんな人の気持ちがわからないのかなぁって思います。
ポイントは細かな法解釈ではなくて結局は「個人の尊重がまず出発点である」という基底をきちんと理解しているかどうか、自分には理解不能で、比較不能な価値観が存在するということをきちんと踏まえているかどうかなのではないだろうか?それが出来ない人間は似たような問題が起きるたび「ごね得だ」とまたぞろ批判を始めるだろう。
(追記)
もう少し踏み込んで書いてみることにしよう。最初にこの記事が出た時、この「道路の必要性」、すなわち「利便性・環境負荷・財政状態を勘案してまさに必要性のある道路である」と論じようとした人間はいなかった。が、これはいささか奇妙ではないだろうか?
保育園側の利益と衝突しているのは、「道路の必要性」という公共の利益である。とすれば仮に「保育園側がごね得だ」と論じたいのなら保育園側の利益と公共の利益とを比較勘案する過程は「不可欠」であるはずだろう(そしてこれは行政法の専門家以外の人間に出来る唯一のことでもある)。
つまり「当初の保育園批判派」は一方の主張する利益を「それが実在するのかどうか疑いもせずに」前提とし、一方を批判したわけだ。すなわち彼らは、行政側の主張は「よく分からないが(調べる気もないが)正しいはず」で、それと争おうとする人間こそが僭越なのだ、という「全体主義」に(主観的にはどういう意図があるにせよ)結局は明確にコミットしたのである。
繰り返そう。問題は細かな法解釈がどうであるかにあるのではない。全体主義に対しどのような態度をとるかという問題なのだ。


Comment (5)
どうもはじめまして、コメントのほうが後だったんですね、今見るまで気づきませんでした。
>彼らは一体何について誤解をしていたのだろうか?そして一体何を納得したのだろうか?
ブクマコメントを見ていると、「芋はどうでもいい」とか「一般向けのを書くときは」とか「マスゴミ」とか書いている人もいるからそういう理解は変ええないのでしょう。
http://d.hatena.ne.jp/fly-higher/20081020/1224491673
直接議論した方でもこうですし。
ただ特に余計なことも書かずブクマした人やそのほか多くのブクマはしなかった人にはやはり「なにか」伝わったんではないかと思いたいですね。あのエントリーはそれだけのことを書かれたと思います。では。
Commented by: N・B | 2008年10月21日 13:39
日時: 2008年10月21日 13:39
N・Bさん。はじめまして(もっともいつも色々なところで書き込みを読ませて頂いてますが)。
いしけりあそび氏のEntryが素晴しいものであったことに何の異論もありませんし、伝わる人には伝わったことと思います。但し当初の保育園批判派で、それを読んで「納得してしまった」人たちが「自分は法解釈を間違えていただけだ(知らなかっただけだ)」と思い込むのは明らかな間違いであると思います。
Commented by: deadletter | 2008年10月21日 23:05
日時: 2008年10月21日 23:05
わざわざ挨拶にも答えていただいてすいません(^^ゞ
>「納得してしまった」人たちが「自分は法解釈を間違えていただけだ(知らなかっただけだ)」と思い込むのは明らかな間違いであると思います。
もちろんそのとおりだと思います。ただ、いしけりあそびさんのエントリーの主題はdeadletterさんが追記で書かれた「行政が特定の誰かに対する命令に対して反対を表明することを忌む「全体主義」(私は使用しない言葉ですがあえてこの言葉のまま)がいま蔓延してしまっていること」をまさに法の領域で問題にすることでもあったわけです。
そのせいがあって特に二つ目のエントリーははっきりと読む人に「自らの現在の態度」を問い返す内容でもあったと思います。だからこそ、とりだしたブクマコメントの言葉や紹介したリンク先は(意識的でなくても)それにも答えてしまったものではあると思うわけです。
その答えはどうにもうんざりするものも多くありますが答えがないよりはいい。そして、黙って(特にブクマをつけて)いる人に「伝わった」可能性をみたいというのが私の考えたことだったと思います。実のところ私自身がそういう可能性に懐疑的なってしまっていますし、自分のこともあんまり信用できないのでだしてしまった愚痴でもあるんですが。
それにしても、橋下知事はさすがにロクでもないことをしすぎるので報道などでもネタ化されたり、橋下はろくでもないがと言って見せる人も多いですが、そうして今も彼は大阪府知事であることを軽く扱っているように思えるのはどうにもいやです(彼はこの「軽く見える」という点でも小泉や石原と似ていると思います)。では、長々すいません。
Commented by: N・B | 2008年10月22日 17:17
日時: 2008年10月22日 17:17
deadletterさん、心にひびく感想ありがとうございました。
ご推察のとおり、私の解釈は「裁判所も認める争いのない法律解釈」ではありません。あのエントリーは、橋下行政vs芋畑という対立の中で、芋畑の側に立ち、代執行の問題を自分なりに考えてみたものです。執行停止申立中の代執行という、ある種派生的かつマニアックな論点に絞ったのは、あの道路の是非そのものについて判断する材料がないというのもありますが、専門家の端くれとして発言する以上は、情報の乏しい中で、できる限り厳密な議論をしようと思った故です。
実際に、あの代執行に対して、裁判を受ける権利なり芋掘りをする権利を主張して、行政に対して痛撃を加えるのはむずかしいでしょう。ただ、行政に対する事件以外もそうですが、少数者の権利は、数限りない敗北の中で、小さな小さな成果を積み重ねていくことによってしか実現していかないものであり、その原動力は、何条がどうの、ではなくて、個人の尊重だと思っています。だから、弁護士時代に「負け知らず」を誇る府知事と違って、私は負けてばかりいますが、めげていません。まあちょっぴり疲れてはいますが。
ただ、ブクマの反応をみる限り「細かな法解釈ではなくて結局は『個人の尊重がまず出発点である』という基底をきちんと理解」してくれた人も、たくさんいたのでは、と思っています。甘いですかね(笑)。
Commented by: いしけりあそび | 2008年10月22日 22:43
日時: 2008年10月22日 22:43
N・Bさん。コメントありがとうございます。
今回の件はマスコミの記事の検証=「めでぃありてらしぃー」の欺瞞性が如実に現れていて僕には非常に興味深かったです。「検証する行為」が政治性の表明に他ならないこと、自分が「~」と言明する(あるいは問を発する)ことによって何をしていることになるのかについての無自覚さというのは、非常に厄介な問題だと思います(N・Bさんもこういった問題を常に取り上げられてますよね)。
もちろんこれは「自戒を込めて」です。
http://d.hatena.ne.jp/hokusyu/20081013/p1
僕も自分の気がつかないうちにどこかで「江戸時代に戻ってしまうじゃないか」論法を使ってしまっているかもしれないわけですから。
今回の件に関して僕が言いたいことの一つはそういうことです。「検証の中身(法解釈)に誤りがあった」というだけの問題なの?という。そういう意味で「伝わっているか」というと…どうなのでしょうか…
いしけりあそびさん。このようなところまでお越し頂き恐縮です。
それにしても当初あれだけ湧いていた対立論者をほぼ全て黙らせてしまう(ブクマコメント・言及記事には否定的なものは皆無でしたよね)力を持ったEntryはそうあるものではないと思います。これだけ双方がエキサイトしている問題にほとんど決着をつけてしまわれたわけですから、ほぼ前例のないことと思います。
「その原動力は、何条がどうの、ではなくて、個人の尊重だ」
少なくとも僕はそれがいしけりあそびさんに今回のEntryを書かせたのだと受け止めました。
Commented by: deadletter | 2008年10月23日 07:46
日時: 2008年10月23日 07:46