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2009年04月11日

「卵」と「壁」について

Thinking

せっかくpavlushaさんに言及をして頂いたので前回のEntryについてもう少し続きを書いてみたい。

イラクで殺害された香田証生さんについて今一度考えてみる(僕はかつて彼についてEntryを書いたことがある)。彼は「単なる旅行者」だった(おそらく犯行グループにもそう主張したことだろう)。ところで、彼について言及した人たちはどうそれについてどう考えたのだろうか?ある人たちは「自分探しの旅にあんな危険なところに行くなんて愚かだ」と非難した。けれどもなぜそのような批判が成り立つのだろうか?

―日本はアメリカの肩を持ってイラクに軍隊を派遣している。とすればアメリカに反感をもつ人たちにとって見れば彼はイラクを攻撃する敵国の人間である。敵国の人間が無防備に戦地をうろつけば「ただの旅行者などと主張」しても通用するはずがない。本人が本気で「ただの旅行」という認識であったのならばただの愚か者である(また「ただの旅行」という言い訳が通用すると思っていたのなら極端に認識の甘い、やはりただの愚か者である)。―

彼がいくら自分の認識を正しく述べようと、彼は自分の行為がどのように解釈されるかを弁えるべきだったのであり、そこにこそ「殺されるのも自己責任」と非難される余地が生じたのだ。このように「事実」を述べたところで、本当にただの旅行をしたかったとして、その行為を実行に移せばそのまま受け取られないことがある。そしてその「受け取られないこと」について、命を賭した重大な責任を問われることがある。実際に彼を「自分探しとは!」・「自己責任だ」と批判した人たちは、彼の「その弁えなさ」について死に値すると評価したわけだ。

僕たちの身の周りには言動・行為がそのままストレートに交換されないようなある種の「場」が特定のあり方で構造化されている。前回のEntryではその「場」の存在を指摘した。そしてその場のあり方をきちんと弁えることが「人」には求められる。仮に香田さんが年端も行かない子供だったと考えてみよう。彼がその「弁えなさ」に関して「自己責任」を問われていたかどうかは疑わしい。戦地で犠牲になる子供がしばしば「何の罪もない」と形容されるのは故なきことではない。

さてここで少し話を変えて今度は宅間守(もしくはムルソー)について考えてみる。彼についてもかつてEntryを書いたことがある。彼らが激しく批判されたのはその動機が犯した殺害行為に「全く見合っていない」ということだった。普通の「人」は彼らが述べたような理由では殺人を犯さないとされている。だからこそ彼らは激しく批判されるべき「人でなし」なのである。「人」として扱われるには「なぜそのようなことをしたのか」・「なぜそのようなことを言ったのか」という問いについて「適切に」答えられなければならない(ちなみに加藤智大はその問いにある意味「適切に」答えられたようにも見える)。

「太陽がまぶしかったから」・「たんに旅行がしたかったから」という理由で行為を実行に移してしまうことは、仮にそれが真実であったとしても、いやそれだからこそ重大な責任を問われることになるのだ。「人」である僕たちには「適切な答え方」を弁えていること、かつそれを内面化することが求められているからだ。

けれどもその「適切さ」がなんであるのかを前もって知ることはもちろん常には出来ない。その「場のあり方」を常に弁えていること、内面化することが可能なわけでももちろんない。それはスタティックに構造化されているわけではないからだ。永山則夫の告白=答えに今世間から共感を呼ぶ力があるとは思えない。場は変化しながら存在する。さらにその変化は何ものかが外在的に齎すものではない。場を通してコミュニケーションに参与する「人」によって・人為的に変えられていくものだ。ちなみにその変化に取り残されることは常にありうる。僕たちは自身の行為や言動の波及効果が、如何なるものであるかを常に完全に予想することは出来ない。

予想も出来ない波及効果に直面した時僕たちは「そんなつもりで言った(やった)のではない」と主張するかもしれない。その時僕たちは自分がどうしようもなく「個」であり「卵」であることを自覚するだろう。とは言え「壁」は「卵」が作り上げたものでもある。その意味で

「卵」と「壁」は、決して別々のものではない。しばしば同一人物が両方になり得る。今の私自身も、やはり両方の契機を兼ね備えているはずだ。

に僕は完全に同意する。

いずれにせよ。そのありようを批判するにせよ、肯定するにせよ、内面化するにせよ、ある種の「場」・「ザ・システム」・「壁」はきちんと存在している。そしてシステムは変えられるけれどもシステムそのものを廃棄できるわけではないのだ。

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