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「LTCM伝説―怪物ヘッジファンドの栄光と挫折」

(ニコラス ダンバー著、東洋経済新報社、2001)


正月に読んでいた本。実は出版されたと同時に買ってはいたのだけれども、あえなく挫折してそのまま本棚の肥やしになりつつあった。それから一年以上。ふと再度手にとってみたら、何とか最後まで読み進めることが出来た。

かなり敷居の高い本だ。金融理論独特の専門用語が飛び交う。「アービトラージ」「スワップ」「オプション」「デルタ(ガンマ)ヘッジ」「イールドカーブ」…これらを基礎的にでも理解しなければ、おそらく何が書いてあるのかさっぱり分からないかもしれない。僕も、かなり粘り強く読んだのだけれども、細かい具体的な取引のテクニックの記述の部分については、素人の哀しさ故、それでも半分くらいしか分からなかった。

「LTCM(Long term capital management)」、1998年9月の破綻時、その処理の為にアメリカのトップバンク14行が総額35億ドルを拠出、さらにあのグリーンスパンが3度の緊急利下げを行わなければならなかった、にもかかわらず本体は僅か従業員200人でしかなかったという「それ」は、まさに謎に満ちた存在だった。

はっきりしていたのはそれが金融市場の中で神格化された存在だったということだ。当時のウォール街の伝説的トレーダー、メリウェザーとノーベル賞を受賞した2人の天才経済学者、マートンとショールズを擁する「LTCM」は一般的なヘッジファンドや投資銀行が必然的に背負い込むリスクを、その高度なリスク管理システムによってパーフェクトにヘッジしているものと見られていた。「現代の錬金術を完成させた」とまで言う人もいたほどだ。

彼らは「相場の方向感」=「勘」に賭けるのではなく、金融工学という「科学」を駆使して「無リスクの」利益を何十億ドルも産み出していると、当時誰もが信じていたし、彼ら自身もそう信じていた。

だが彼らは挫折した。

原因は、彼らの理論が市場の「十分な流動性」と「連続性」をその成立の前提条件としていたことだ。

市場に「十分に流動性がある」というのは、自分が売りたい時にすぐに買い手が見つかる状態のことを言い、「連続性」というのは、価格は連続的に徐々に下がる(上がる)というものだ(価格の飛躍的な変動=ジャンプはほとんどあり得ない)。

だが残念ながらその前提条件は「市場」にとっては、慣性の法則にとっての「摩擦ゼロ」の仮定のように、目をつぶって済ませられるような瑣末なものではない。「売り」が殺到して(買い手がつかず)株価がストップ安(=急激にジャンプする)に、という事態はそれほどありえないことではないのだ。

悲劇は彼ら以外のプレイヤーのリスク管理システムが、ロシア国債のデフォルト(破綻)の発生をきっかけに、市場内で「一斉に作動した時」に起きた。

全てのプレイヤーが雪崩を打って、「守り」のポジションを取り、取引をクローズし始めた結果、先述した「流動性」が急激に低下したのだ。LTCMは底なしに下がり続ける相場の力の前に資金を使い果たし、そして降伏した。LTCMにいた天才たちは、自分たちが組み上げた「帝国」の崩壊をただ、黙って見ているより他はなかった。

この話を単に「机上の空論で市場に挑んだ現実を知らないナイーブな天才たち」=「素朴なバカ」の物語としてしか読めない人は、おそらくどこかで、他の物語に騙されるだろうし、或いはもう騙されたことのある人たちだろう。それはかつての「日本の土地神話」、「IT神話」であり、次世代の「ナノテク」「バイテク」の神話かもしれない。いつだってそういうのは、一見「真理」みたいに僕たちの前に現われるのだ。

じゃあそれに騙されない為には?「うまい話なんてない」っていう信念だけで充分だろうか?何だか心細い気がするな。僕たちの信念がそれほど強いものじゃないことなんて明らかじゃないか。とは言え、それなら具体的にどうするの、って言われたらもちろん困るんだけど。

まあそんな感じに、色々考えさせられた本ではありました。

ちなみに文体はものすごく華麗で、美しいです。訳者がバリバリの金融専門家なので、きっと著者の文学的センスなのでしょう。

(Jan/7/2003)



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